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【柔らかな声色は 鳥篭の外のカナリアかい?】

2009.01.01 (Thu)
ひの様へ

 桃色の髪が、一歩一歩踏み出すたびに柔らかく靡く。
友人の歌っていた甘い恋歌の旋律をうろ覚えで、口ずさむ。
口ずさみながら、クルリと一回転。その時、そのラヴォクスは目を大きく見開いた。
 クルリクルリ、とワルツのターンのように何度か回転して、止まる。
それと同時に、可愛らしく小首を傾げる。空を見上げると、もう夕陽が落ち掛けていた。ポツリ、と唇を開いて、呟く。

「迷った、かな?」

【More・・・】


 街灯の光がポツリポツリ、と立ちすくむようにあって、それに並ぶように植え込まれている街路樹。あまり暗いとは言いがたいアスファルトの上を、ゆっくりと歩いていくラヴォクスは不満げに、もう一度空を見上げた。
 先ほどまではまだ明るかったはずなのに、どうして?と、頬を膨らませる。
その愛らしい仕草に、時折通りかかる人々はその少女を振り返った。

 はぁ、と溜め息を吐くと、目の前の通りを見つめた。不満げにラヴォクス特有の耳が大きく揺れる。そして真剣な顔つきで、目の前を睨むように見た。
右、と、左の通り道。先ほど右に曲がってまたこの通りに来たような気がした。
…また右に行ったら無限ループ、抜け出せないと思う。
一人頷くと、今度は左に行ってみようかしら。と、ヒョイ、と通りを覗き込んで、眉を寄せた。

「…真っ暗。」

 狭い、通り道だからだろうか。街灯の光が一つも無い。少し怖気ついた。
でも、でも、今日は特別な日だもの。と、思いなおして、一歩足を踏み入れた。
先ほどと、違う。ヒンヤリとした温度差に顔を顰める。

          夜?

下らない考えを、フルフルッと頭を振って追い出した。しかしまだ、頭の中では「どうしよう。」だとか「早く帰りたい。」という単語しか出てこない。しかもそれがグルグル回るものだから、イライラと不安が募っていく。

「こ、これくらい通れるもん!」

 誰に言うでもなく自分自身に言い聞かせるようにして、狭い路地裏に足を踏み入れた。
途端に全身がヒヤ、とした空気に包まれた。思わず、喉の奥にグッ、と力を入れて進む。途中で自然と手が黒のゴスロリデザインのスカートの裾をギュッ、と握り締める。それでもそわそわ、となんとなく落ち着き無く前に前に、と前進した。
 入ってからどれくらいたっただろうか?前を見ると、カラフルな明かりが見えてきた。
やっと、出口。ほっとして腕の力を緩めた、瞬間。

 ぐしゃり。

 なにやら、柔らかいものを踏んだような、感触が靴の裏から感じた。

「…え…?」

 何、か、嫌な、音、が。
恐る恐る下を見ると、純白の長い何かが見えた。悲鳴が喉の奥から込み上げて来る。しかし、その悲鳴を出す前に、はた、と喉の奥の力が抜けた。
 恐る恐る踏んだ足を退けると、それはシュルリ、と弧を描くようにして縮まっていった。

 純 白 ? 縮 ま っ た ?

 なにやら何かを忘れていたような、そんな気がする。なんだったかしら、と首をかしげた瞬間。痛みを訴える、呻き声にも似た声が聞こえた。それと同時に、カツン、と自分の靴音ではない靴音が響いた。丁度誰かがよろけた様な、そんな、感じの。

「…アン…リエット?」

 ボソ、と呟かれた名前は確かに自分の名前で、でも何処と無く妙なイントネーションで。それは痛みでか、それとも久し振りに会ったからの戸惑いか。
 名前を呼ばれてハッ、とした瞬間。探っていた記憶が甦ったような気がする。

 バトン? 三つ編み? 黒髪…。

 パアッ、とアンリエットの表情が明るくなった。

「プーケちゃん!」

「…やっぱり…。」

 はぁ、と溜め息を吐く音が狭い路地裏に響いた。






 とてとて、と目の前を歩く人物の後ろをついていく。先ほど踏んだのはその人物の尻尾だったらしく、それもかなり痛かったらしく、最初は文句を長々と呪文の如くぼやいていたが、今は大部分落ち着いたらしく無言でカツコツ、と足音を響かせて歩いている。その背中に向けて、アンリエットは問うた。

「どうしてあんなところにいたの?」

「…さぁ?」

 素っ気無い返事に、少し膨れる。
先ほどから同様な質問をしても「さぁ?」だの「そう?」だの「…へぇ。」だので返されて、会話が続かない。むっ、とするのも当たり前だろう。

「ねぇ、プーケちゃん、たらっ!」

「だ・れ・がそんな名前…。プリケリマ。」

「知ってるよ。」

「だったらそう呼べ。」

 淡々と告げられる言葉には意図なんて無くて。それがまたなんだか頭にくるようで。もう一度何か問うてやろうか、と唇を開いた瞬間、溜め息と、先ほどの素っ気無い声が聞こえた。

「…飼い主が今日あんたの誕生日だと。」

 ポツリ、と呟かれた言葉に、小首を傾げる。

「どうしてプーケちゃんが?」

「…リー、で良い…。」

 注意する気も失せたのか、もう一度溜め息を吐く音が聞こえた。
そして、そのままアンリエットを見たまま一言。

「…オメデトーゴザイマス。」

 軽く、一礼。そして掌中に何かを放り入れられた。
黒と銀のラッピング。それを見て、アンリエットは瞳を輝かせた。
中身はなんだろうな、何て思った瞬間、その手を掴まれて多少乱暴に引っ張られる。

「心配してるから、帰ろう?」

 疑問系、だけどもキッパリとした口調で言うと、そのままグイと引っ張られた。
苦笑混じり笑うと、つい先ほどの夕昏を見ながら歌った歌をうろ覚えで歌い始めた。



「The sky which the moon sings blooms.」

月が歌う、空が微笑む。

「A night veil falls kindly.」

夜のヴェールが優しく降りかかる。

「Let's mutter at you who lead you by the hand.」

手を引く貴方に呟きましょう。

「Do not please separate this hand.」

どうかこの手を離さないで。

「Than I am embraced in a gentle nightmare and sleep.」

優しい悪夢に抱かれて眠るより。

「I tell a song, and is it a request, a canary?」

歌を聞かせて、お願い、カナリア?



 愛らしい歌声。声音とあっている歌詞も、何処と無く神秘的だった。
ボンヤリ、とあの流れるような金髪を思い出した。そしてあの謎めいた口調も。


「…Happy Birthday to you…」

 ボソ、と呟いて、アンリエットは微笑むと、そのままムシチョウの腕を掴むようにして駆け出した。



       誕生日おめでとう。
【編集】 |  16:31 |  リヴリー  | トラックバック(0) | コメント(0) | Top↑

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